H27-1級課題発表用_200


こんにちは、TAC建築士講座の神部です。 かんべ

 今年度の設計製図課題は、「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」(基礎免震構造を採用)と発表されました。
 課題の特色について、いくつかのテーマに分けて、分析してみることにします。

1.「高齢者向け集合住宅」とはどんなイメージか
 「シルバーハウジング」や「サービス付き高齢者向け住宅」を直接指定しているわけではありませんが、このような施設を前提とした出題と解釈するのが妥当と考えられます。
 我が国の急速な少子・高齢化や家族形態の変化から、介護・医療と連携して一人暮らしの高齢者や高齢者夫婦を支援するサービスを提供する良質な住宅の供給が急務です。
 では、これらの住宅は、どんな制度に基づく住宅なのかを社会背景と制度の変遷から考えてみましょう。
国による住宅施策の一環として、昭和62年に発足(平成13年に改訂)した「シルバーハウジング・プロジェクト」があります。これは地方公共団体・都市再生機構・地方住宅供給公社などが行う高齢者世帯向けの公的賃貸住宅の供給事業で、バリアフリー化され、生活援助員(ライフサポート・アドバイザー)による見守りサービスを備えていますが、現在まで十分な供給量を実現することができていません。
 これを補うため、民間等の賃貸住宅を対象に助成を行う「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」、「高齢者優良賃貸住宅(高優賃)」、「高齢者向け円滑入居賃貸住宅(高円賃)」などの制度が設けられましたが、これも十分な成果をあげるまでには至りませんでした。
 このような状況から、平成23年に「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」が改正され、「サービス付き高齢者向け住宅」という制度が国土交通省と厚生労働省の共管で創設されました。一定の基準を満たし、都道府県への登録を行った民間等の賃貸住宅に、建設費の融資の支援や税制上の優遇措置などを助成することで、60歳以上の高齢者などを対象に、バリアフリー化され、居住者に日常生活を営むために必要な生活相談などの福祉サービスを提供する高齢単身者・高齢者夫婦向け住宅を供給するものです。

2.「デイサービス付き」のデイサービスとは
 デイサービスとは、通所介護(日帰り介護)という意味で、要介護高齢者が、老人デイサービスセンターなどで、介護保険制度による入浴・食事といった介護や機能訓練などのサービスを受けることができる施設です。
 したがって、デイサービスと連携することによって、集合住宅の居住者は、そこで入浴・食事・機能訓練などのサービスを受けることができます。

3.高齢者向け集合住宅とデイサービスの機能
 サービスと所要室の主な内容をまとめると次表のとおりです。
 近年の試験においては、要求室の床面積は「適宜」指定されるものが多く、設計者(受験者)が要求室の機能から形状や配置・動線計画を考え、利用者の人数から適切な床面積を想定しなければなりません。
 機能のみならず、適切な面積の算定の目安を覚えておく必要があります。
27-課題分析-表_150


4.集合住宅とデイサービスのゾーニングと立体構成
 デイサービスと集合住宅の主要なアプローチ及び玄関は、原則、分離して設けると思われます。ただし、平成21年以後の出題方針を分析すると、2つを完全に独立した併設施設とすることは考えにくく、屋内で連絡できる計画が求められると思われます。
 階の構成は、建築物の1階、又は、1階と2階にデイサービスが設置され、基準階が集合住宅となる構成が最も妥当な構成です。

5.「市街地に建つ」
 高齢者施設の場合には、採光・通風などについての良好な居住環境が求められ、特に日照条件への配慮は重要です。北向き住戸配置は厳禁です。また、プライバシー保護も不可欠です。敷地図に示された隣接する施設の位置などを考慮して、主要な開口部を設ける方向には注意しなければなりません。また、隣地が公園である場合は、積極的に景観を生かした居室配置が求められます。

6.「基礎免震構造を採用した建築物」
 要求図書の断面図に「基礎免震部分を含む。」と注記していることから、基礎免震構造を採用したときの基礎部分の構成を正しく図示し、要所については簡単な解説文を引出し線などを使って記入する練習をしておく必要があります。「基礎構造部」、「免震層」、「上部構造」を適切な計画寸法と部材の断面寸法で正確に表現できなくてはなりません。

7.「要求図書」から敷地寸法を考える
 本年の課題は、平成23年と同じ平面図が三面出題されましたが、6年間出題されていた「梁伏図」の出題がありません。答案用紙のスペースの関係から、平成23年の平面図三面+梁伏図の課題に比べ、「梁伏図」がない分、敷地面積は東西45m~50m、南北35m程度のやや大き目の敷地となることが考えられます。

8.屋外施設の計画
 デイサービスは、通所介護者への送迎サービスを行うことから、マイクロバス及び車椅子使用者用駐車スペースを覚えておく必要があり、デイサービスのエントランスに必要となる送迎のための「車寄せ」の計画や「スロープによる段差処理」が建築物の配置計画に大きく影響することになります。また、集合住宅では、駐輪スペースやゴミ置場の計画寸法を覚えておく必要があります。
 そのほか、地域の交流、居住者の交流などコミュニティ形成を目的とした屋外広場の出題が想定できます。その場合、「上部のひさしや屋根を含む、含まない」や「まとまったスペース」の条件に注意することと、利用目的が「広く地域に開放する」ものなのか「施設利用者又は居住者が利用」するものなのかによって、配置計画が異なりますので注意すべきです。

9.主要な歩行経路のバリアフリー化
 高齢者、オストメイトなどの障害者等に配慮した多機能便所の各階設置や適正な歩行経路の幅員の確保・段差処理が求められます。また、車いす使用者用及び送迎用マイクロバスの駐車スペースは、エントランスから近い位置に計画する必要があります。
 なお、平成11年の「高齢者住宅を併設した集合住宅」の課題文では、「設計に当たっては、この設計条件によるものとし、医療法、老人保健法及び老人福祉法に関する規定については考慮しなくてよい。」という条件が付されました。したがって、今年度も、関係法令や省令についての詳細な知識を求められることはなく、デイサービス部分や集合住宅の共用部分については、「バリアフリー法による基準(建築物移動等円滑化誘導基準)」を、各住戸の内部については、告示「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」を理解しておけば良いと思われます。


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