井澤ですいざわ

令和元年一級建築士試験「設計製図の試験」の課題が公表されました。
以下、公表された内容の中で特に注目して欲しい部分を赤字にしています。

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■課題名
美術館の分館

■要求図書
1階平面図・配置図(縮尺1/200)
2階平面図(縮尺1/200)
3階平面図(縮尺1/200)
断面図(縮尺1/200)
面積表
計画の要点等

(注1)
・既存の美術館(本館)の隣地に、美術、工芸等の教育・普及活動として、市民の創作活動の支援や展示等を行うための「分館」を計画する。
(注2)
屋上庭園のある建築物の計画
(注3)
・建築基準法令に適合した建築物の計画(建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)

■建築物の計画に当たっての留意事項
・敷地条件(方位等)や周辺環境に配慮して計画するとともに、空調負荷の抑制や自然光の利用を図る。
・バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等に配慮して計画する。
・各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
・建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
・構造種別に応じて架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面寸法の部材を配置する。
・空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。

■注意事項
「試験問題」及び上記の「要求図書」、「建築物の計画に当たっての留意事項」を十分に理解したうえで、「設計製図の試験」に臨むようにして下さい。
なお、建築基準法令や要求図書、主要な要求室等の計画等の設計与条件に対して解答内容が不十分な場合には、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断されます。
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発表課題の主なポイントは次のとおりです。

1.「分館」

美術館の「本館」ではなく「分館」です。
答案用紙がA2サイズであるという制約からくる規模に関係していることはもちろんですが、次の点を考慮する必要があります。

(1)本館との一体的使用
昨年の試験では、計画するスポーツ施設と隣地のカルチャーセンター等との一体的な使用が大きなテーマになりました。
今年も本館との一体的使用が大きなテーマになる可能性が高いと思われます。

(2)アプローチ
「本館との一体的使用」のためには、分館のエントランスからのアプローチとともに、本館からのアプローチも考慮する必要があります。
そのため、課題の「敷地条件や周辺環境」のなかで、特に本館との関係を正しく理解し、計画に反映させる必要があります。
本館との関係を明確にするため、昨年の試験と同様に課題文がA2サイズになることも十分に考えられます。また、本館と分館が渡り廊下等で接続されることなども十分に考えられます。

(3)部門構成
(注1)に「美術、工芸等の教育・普及活動として、市民の創作活動の支援や展示等を行うための『分館』」と明記されています。
したがって、部門構成としては「展示部門」、「教育・普及・情報部門(ワークショップなど)」の面積割合が大きくなり、隣地に本館があることから、搬入・荷解き室、収蔵庫等の「収蔵部門」、「調査・研究部門」の面積割合は小さくなります。

2.「屋上庭園」

(1)屋上庭園の設置階
屋上庭園の計画が求められています。要求図書では1階から3階までの平面図が求められていることから、屋上庭園の設置階は3階の屋上ではなく、3階床レベル(2階の屋上)または2階床レベル(1階の屋上)に求められると考えて間違いありません。

(2)屋上庭園へのアクセス
屋上庭園へのアクセスとして、①共用廊下からのアクセス、②所定の居室からのアクセス、③本館からのアクセス、④地域住民が直接アクセス、などが考えられます。

(3)断面図
屋上庭園には防水層、土壌などが必要になります。
例年以上に特に断面図の中で屋上庭園の表現に対する配慮が求められます。

3.「建築基準法令に適合した建築物の計画」

(1)建築基準法令に適合した建築物の計画
昨年の試験では、建蔽率違反で不合格になってしまった受講生が多くいました。建築基準法令への適合は、計画の最低条件です。
また、昨年に引き続き、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設等の適切な計画が求められます。

(2)高さの制限
今年の注目は「高さの制限」が明記されたことです。道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限です。
高さ制限のかかる部分に屋上庭園を持ってくるような計画も十分に考えられます。

(3)延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等
これらは昨年と同様です。
① 延焼のおそれのある部分
「外壁の開口部で延焼のおそれのある部分(隣地境界線、道路中心線等から1階で3m以下、2階以上で5m以下の部分。ただし、防火上有効な公園等に面する部分を除く)」には、20分の遮炎性能をもつ防火設備が求められます(法2条九号の二ロ)。
昨年と同様に「延焼のおそれのある部分の位置(延焼ライン)」や防火設備の図示が求められると考えられます。
② 防火設備
原則として床面積の合計1,500㎡以内ごとに面積区画が必要です。(令112条1項)
また、3階建てでは吹抜け、階段、EV等の部分は、原則として竪穴区画が必要です。
昨年と同様に「防火区画に用いる防火設備の位置及び種別(特定防火設備と防火設備)」の図示が求められると考えられます。
③ 避難施設
2以上の直通階段、歩行距離と重複距離はもちろん、昨年と同様に「敷地内の避難上必要な通路(1.5m以上)」の経路と幅などの図示が求められると考えられます。

4.「建築物の計画に当たっての留意事項」
・6項目からなる「建築物の計画に当たっての留意事項」の最初に「空調負荷の抑制や自然光の利用を図る」ことが求められています。近年「パッシブデザインを積極的に取り入れた建築物の計画」と表現されていたものをより具体的に表現したものになります。
・2つ目のバリアフリー以降の項目は昨年と変わりません。
・「建築物の計画に当たっての留意事項」の内容は抽象的ではありますが、採点に大きく関わる非常に大事な内容です。昨年と同様、試験当日の課題文にはあらためて記載されないと考えられますで、「注意事項」にあるとおり、「十分に理解したうえで」試験に臨まなければなりません。

5.「注意事項」
注意事項にあるとおり、建築基準法令や要求図書、主要な要求室等の計画等の設計与条件に対して解答内容が不十分であるとして「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」と判断されると不合格になります。
このように設計与条件に従った計画が強く求められています。これは設計製図試験の鉄則です。

以上、発表課題から考えられる主なポイントでした。

・開講日までに自分でHPで調べ、実際に美術館を訪れるなどして、美術館のイメージを膨らませておくことが大事です。
・なお、試験機関のHPにあるように、課題の参考となるような施設に対して、見学等の要請を行う場合には、予め施設に連絡を入れる等、社会通念上、良識のある行為、言動等に留意して下さい。

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最後に、明後日学科試験を受験される方へ
もう少しで学科試験から開放されます!
最後の最後まで1点のために頑張ってください。
皆様の合格を心から祈っています!