予想しておりましたが、ランクⅣ(重大な不適合)の割合が非常に大きいですね。
【一級製図主任:清田講師より】
皆さんこんにちは!
TAC一級建築士設計製図講師の清田(セイタ)です。
まずは本日、一級建築士試験に合格された皆様、本当におめでとうございます!
ここからは、今年度の課題「図書館」について、建築技術教育普及センターの発表内容を受けて簡単な講評をしたいと思います。まずは合格率と採点ポイントについてです。
年度 |
実受験者数 |
合格者数 |
ランクⅠ |
ランクⅡ |
ランクⅢ |
ランクⅣ |
R5 |
10,238人 |
3,401人 |
33.2% |
2.1% |
22.1% |
42.6% |
R4 |
10,509人 |
3,473人 |
33.0% |
6.1% |
32.4% |
28.5% |
R3 |
10,499人 |
3,765人 |
35.9% |
6.3% |
26.9% |
30.9% |
昨年と比べると、製図の実受験者数は270名ほど少なく、合格者数も70名ほど少ないですが、製図の合格率自体は33.2%と、昨年の33.0%と変わらない結果でした。
一方で、今年度の試験結果の大きな特徴として、「ランクⅣ:設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの」が42.6%とかなり増えたことが挙げられます。昨年と比較して14.1ポイントも増加しており、受験者の半数近くが「ランクⅣ=失格」に該当してしまったことになります。
■採点ポイント■
次に、建築技術教育普及センターから公表された「採点のポイント」を示します。
(1)空間構成
①建築物の配置・構造計画、②ゾーニング・動線計画、
③要求室等の計画、④建築物の立体構成等
(2)建築計画
①多世代の交流促進及び効率的な施設管理について配慮した計画
②ユニバーサルデザインや自然採光に配慮した計画
③省エネルギー化の実現及びエネルギー自立度を高めた計画
(3)構造計画
①閉架書庫の構造的特徴に配慮した計画
②地盤条件や経済性を踏まえた基礎構造の計画
(4)設備計画
①一般開架スペースの空調設備計画
②屋上に設置する設備機器等の計画
※ 設計条件・要求図面等に対する重大な不適合
①「要求図面のうち1面以上欠けるもの」、「面積表が完成されていないもの」又は
「計画の要点等が完成されていないもの」
②図面相互の重大な不整合(上下階の不整合、階段の欠落等)
③次の要求室・施設等のいずれかが計画されていないもの
一般開架スペース、児童開架スペース、閉架書庫、対面朗読室、自習室、ワークルーム、
企画展示スペース、セミナールーム、荷解き配本スペース、カフェ、ブックポスト、
ポンプ室、消火ポンプ室、PS・EPS、エレベーター、車椅子使用者用駐車場、駐輪場
④法令の重大な不適合等、その他設計条件を著しく逸脱しているもの
●「ブックポスト」は室ではありませんが、その欠落で「失格」と判断されました。うっかりミスで描き忘れた方もいたのではないでしょうか。
●「エレベーター」については、施設利用者用、管理者用の最低2台がないと「失格」ということになります。
●要求室表の条件にあった「乳幼児連れに配慮した室」や「施設の運営管理に必要な室」といった、受験生自らが考えて計画する室については、計画漏れがあったとしても「失格」とは判断されていないようです。これらの室の有無についての採点上の判断がどのようなものなのか、気になる所です。
さらに、「採点結果の区分(成績)」には、次のようなコメントも記載されています。
【受験者の答案の解答状況】
「ランクⅢ」及び「ランクⅣ」に該当するものが多く、具体的には以下のようなものを挙げることができる。
・設計条件に関する基礎的な不適合:「要求室・施設等の特記事項の不適合」等
・法令への重大な不適合:「道路高さ制限、北側高さ制限」、「延焼のおそれのある部分の位置(延焼ライン)と防火設備の設置」等
●上記からわかるように、やはり法規に関するミスが致命的となった方が多かったようです。特に今回初出題の「北側高さ制限」についてクリアしたかどうか、正しい理解ができていたか、が合否を分けた最大のポイントであったと言えるでしょう。
【総評コメント】
今年度の試験は、「乳幼児連れに配慮した室」や「施設の運営管理に必要な室」について、受験生自ら考えて適切に計画する「建物の用途の知識」や「柔軟な設計力」が求められたとともに、「法規をクリアすること」が合格するためにマストであることを改めて認識した試験であったと思います。
また、標準解答例を見てもわかるとおり、要求室の設置階、建物へのアプローチ計画なども自由度が高く、「実務の設計に近い試験」になってきる印象も受けます。
このような、近年の試験の傾向に対応するためには、まずは「計画の基礎」をしっかり固めた上で、自由度の高い課題に触れることが大切でしょう。
多くの課題をやみくもにこなしても設計力は向上しません。
課題を繰り返し解くことでプランのバリエーションを身に付けることができますが、それぞれのプランにおける一長一短を理解することが重要となります。よりよいプランを目指した「課題の消化」を心掛けた学習が合格に向けて有効であると考えます。
■令和6年度試験にチャレンジする方へ■
以上を踏まえ、近年の「設計製図の試験」に合格するためにはどうすれば良いのか?を考えてみます。来年の7月の課題発表までに以下のような対策が必要でしょう!
1.作図力の強化
2.エスキス力の強化
3.記述力の強化
4.タイムマネジメント力の強化
5.チェック力の強化
それぞれについて順番に見ていきます。
1.作図力の強化
作図力を強化するとは、具体的には「作図の表現力を上げる」、「作図スピードを上げる」、この2点が大きなテーマです。現状、2時間半以内に作図完成ができない方は、来年7月の課題発表までにスピードを上げておくことが合格のためにマストとなるでしょう。
2.エスキス力の強化
エスキスと一言で言っても、「課題文の読み取り」、「周辺環境を考慮したアプローチの取り方」、「ゾーニング」、「グリッドの計画」、「室の納め方」など様々な要素があります。自分がどこでつまずくのか、ミスをするのか、自己分析(弱点の把握)をしっかり行い、その弱点を克服する必要があります。また、近年の試験は計画の自由度が高く、「自分で考えて計画する」という実務としての本来の「設計」に近い力が求められてきています。しかし、自由だからと言って何でもよい訳ではありません。用途ごとに必要な「計画の基礎」を押さえる必要があり、様々な用途に関しての計画のセオリーを学んでおくと良いでしょう。
3.記述力の強化
近年の記述は、毎年新しい要素がいくつか求められ、なかなか対応することが難しい状況です。しかし、それ以外の設問は、過去の出題をベースにした学習で十分に対応できるので、そちらを落とさないような対策をしておくと良いでしょう。
4.タイムマネジメント力の強化
難度の高い本試験では「エスキスに時間がかかって、作図はギリギリ。チェックする時間がありませんでした。」という方は多いのではないでしょうか。自分の中でエスキス、作図、記述、チェック、などそれぞれの工程のデッドラインを決めておき、課題の難易度にかかわらず、毎回、必ずチェックまで行えるような「タイムマネジメントの訓練」が必要です。
5.チェック力の強化
チェック自体を甘く見ている受験生が多く見受けられます。エスキスや作図の完了直後は、誰しも必ず漏れ落ちがあります。チェックを行うことは、合格のために必要不可欠な工程なのです。
漏れ落ちのない図面を仕上げるための「自己チェックを習慣付ける訓練」が必要でしょう。
以上、令和6年の「設計製図の試験」を有利に進めるためには、上記の5つの項目について課題発表前までに身に付けておくことがとても大事になります。
この試験は、相対試験(ライバルと競う試験)ですから、今のうちにアドバンテージをとっておいた者勝ちです!
そこで早めに対策のスタートを切れるように、TACでは3月から開講する「総合設計製図本科生」の講座をご用意しています。
ライバルに差を付けるために、是非とも早めに試験対策を始めることを強くオススメします!
今年の悔しさを絶対に忘れないでください!!
■標準解答例について■
合格発表とともに、標準解答例が公表されました。
「標準解答例」から読み取れる「課題のポイント」やその「活用の仕方」などについて、
以下の動画で詳しく解説しています。
来年度、受験をお考えの方は是非ともご視聴ください↓↓↓↓
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2024年は設計製図の試験だけ!という方は、春からのスタートをお考えください。
全員が本気で挑む試験でありながら合格率3割というこの難関試験。
また学科試験から・・・というせつない展開になることは全員が避けたいはずです。
当コースでは、課題発表までに「合格レベルの設計力・作図力」を身に付けることを目指します。講義(インプット)と実習(アウトプット)を繰り返すことで、7月の課題発表時には、発表課題に特化した学習に専念できるような状態に整えます。
毎年図面をみていて思うことですが、夏から始める方とかなりの実力差がつきます。春から始められる方はここから始めてください。
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