設計課題「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅
(基礎免震構造を採用した建築物である。)」
平成27年1級建築士 設計製図試験の課題は、集合住宅(共同住宅)とデイサービス(児童福祉施設等)で構成される「複合施設」を機能別に明確に分離するとともに、これら機能をどのように融合(屋内の連絡)させるか、「分離」と「融合」が主要なテーマです。
今年の課題は、自由度の高い試験、いい方を変えれば課題条件が読み取りづらい課題でした。課題を整理するのに時間を要し、作図時間を確保できなかった方も多いと思います。ほとんどの方が、不明な点などについては、一定の割り切りの中で、答案完成を目指したのではないでしょうか。しかし、自由度が高い分、記述や作図中の描き込みで、設計意図が的確に述べられていれば、例年に比べ多様な答案が許容される試験であったと思います。また、未完成答案も昨年と比べ多くなると思われますので、完成者には、皆チャンスがある試験です。
課題条件を整理してみたいと思います。答案プラン例(ページの最後に掲載)を参照しながら確認してください。
〔課題の概要〕
1.アプローチ計画について
①共用エントランスホールへのアプローチは、北側道路であり、エントランス近くに車寄せ及び駐車スペースを計画することになります。東側が歩行者専用道路(6時~21時まで)であることからも、間違いないところです。
②レストランとギャラリーは、「商店街との連続性を配慮するとともにエントランスホールからの動線を考慮した計画とする」とありますので、東側道路に面し、かつ、出入口を設けるのが妥当です。また、エントランスホールから短い動線でアクセスできるようにするために、直接ホールからの屋内動線を確保するか、又はエントランスホールに東側道路に面したサブ出入口を設け、屋外動線を短くする計画が考えられます。ただし、「地域住民等も利用できるレストラン」とありますから、やはり屋内動線が最も望ましいものと考えます。
③サービスアプローチは、サービス駐車場と併せて北西の角と考えるのが、妥当なところです。
2.屋外スペースの計画
当然のごとく、車寄せが求められましたが、駐車台数も少ないことから、北側エントランス近くに設け、通り抜けできる計画が望ましかったものと思われます。
駐車スペースの寸法及び車路等は、図のような計画寸法が標準となります。
特に車寄せの位置は、エントランスのできるだけ近くに設けられるよう図のように計画することもできます。
屋上庭園については、次のゾーニング・動線計画のところでまとめました。
3.課題の特色に係る要点の整理
①エントランスホールの位置付け
まず約100㎡の大きな吹抜けを持つエントランスホールについて、整理しておきます。
エントランスホールは、「居住者、デイ利用者の共用」とされています。
つまり特定多数のみが利用する出入口と解釈できますが、アプローチ計画で述べましたように、エントランスホールとレストラン等は、内部でつながる計画となり、さらに設計条件の主文で「地域住民も利用できるレストラン等を設け、地域住民と交流できるようにする」とあることから、レストラン等と併せて、出来るだけエントランスホールの吹抜け部を地域交流の場として計画することを望んでいるように読み取れます。
その延長で考えれば、東側道路に向けたサブエントランスを設ける計画でも問題ないと考えられます。
②セキュリティ
そもそもエントランスホールは、区画されるデイの受付ホール(以降便宜上、「受付ホール」と呼びます)を除けば、住宅部門のエントランスホールですので、さらに扉で区画する必要はありません。注意すべきは、そこに地域住民など不特定多数が入り込むことになりますので、住宅EV・階段ホールの直近には、「管理人室」の配置が絶対条件です。
また、防犯上でいえば、屋外階段については、1階に扉を計画しておけば問題ないでしょう。
③エントランスホールの吹抜け(約100㎡)の位置づけ
吹抜けの条件では、「自然採光を取り入れる」こと、そして、記述において「エントランスホールの吹抜けを活かした空間構成」が求められています。
自然光を取り入れるには、外壁面に対して間口広く開口を計画するほか、吹抜けの上部階を計画せずに屋根としてトップライトを十分に設けることです。自然採光を取り入れることで、明るく開放的な空間構成とすることができます。
また、もう一つの吹抜けを活かした計画は、上階のデイサービス部門から見える計画とすることです。両者は異なる空間ですから、直接空間を連続させる吹抜けではありません。あくまでも視覚的なつながりです。
このいずれかが、計画できていれば、良い計画となります。
④施設管理室の配置について
集合住宅、デイサービス、レストラン等の複合施設全体の管理・運営を行う機能ですから、建築物の防災センター的な機能を考えれば、職員の通用口付近に計画し、エントランスホールへの動線(廊下)を計画するのが順当です。ただし、共用部門として、エントランスホール側に面した配置としても問題ありません。
4.ゾーニング・動線計画について
①1階について
●1階のゾーニング・動線計画については、1階のエントランスホールから、レストラン及びギャラリーへのアクセス、そして各部門の縦動線である「住宅のEV・階段ホール」、「デイのEV・階段ホール(受付ホール的な空間)」にアクセスさせる計画となります。「夜間はデイサービスに入れないようにする」ということですから、前述の受付ホールの出入口があると考えればよいでしょう。
●大まかなゾーニング
1階はエントランスホールから至るレストラン及びギャラリーのゾーン、住宅のEV・階段ホール、デイの受付ホールが利用者のゾーンです。そして、職員、スタッフのゾーンとして、サービス出入口からスタッフルーム(受付)及び生活相談室が受付ホールに面して配置され、その他施設管理室、設備スペースを計画するのが順当なところです。
ただし、スタッフルームは、事務室の機能とサービスステーションの機能が一体となっていることから、上記のように受付機能重視で1階に計画する場合と、サービスステーション機能を重視して2階に設ける場合が考えられますが、いずれの計画も可能です。
②2階について
2階にデイサービスの中枢機能である機能訓練室、浴室、医務室が配置され、その他に2階にスタッフルームを計画することも考えられます。かなり面積に余裕がありますが、1階の吹き抜け空間として約100㎡の空間をスペースとして用意することを忘れてはなりません。
機能訓練室は、食堂・機能訓練室・静養室を一つにまとめ約180㎡の出題でしたが、定員20名の床面積の規模として想定内でした。
注意すべきは、機能訓練室の食事スペースへの食事の提供は、「レストランの厨房で調理する」条件でしたので、2階の食堂と1階のレストランの厨房をつなぐ小荷物専用昇降機とパントリーを計画するか、又はサービス用のEVを利用する場合には厨房からの動線に配慮する必要があります。
③基準階及び屋上庭園について
南面する7mスパンの二つ割りの計画で、各階計12戸の一文字形の計画を考えるのが最もオーソドックスな計画です。北側に階段・EVを配置することにより、一般的な基準階の計画が完成できます。
ただし、屋上庭園(約100㎡ 2グリッド分)の配置が計画の障害になります。居住者の動線を確保しなければなりません。住戸を一部セットバックして住戸の南側に庭園を配置してしまうと各住戸の開口部に対してプライバシーの確保ができなくなってしまいます。したがって、屋上庭園の配置は、北西の公園に面する側に配置するのが妥当なところです。
また、どうしても南側にしたい場合は、図に示したようにプランAの住戸11と住戸12を西側に向けて、屋上庭園と位置を入れ替え、一部L形配置とするプランA’のように計画すれば、南に面して配置することもできます。
プランAは、高齢者住宅として、最低限間口3・5mを確保し、どの住戸も均一に十分な日照が得られる配置計画を最優先した答案例です。
また、特殊な計画例かもしれませんが、プランCのようにU形配置とすることで、居住者の利用に配慮した計画も考えられます。一部住戸(4戸分程度)を東又は西側向き配置とすることで、プライバシーを確保し、屋上庭園を南側の中央に設けることも可能です。
5.平面計画について
①住戸計画
住戸計画では、やはり1住戸当たりの間口寸法を適正に確保することがあげられます。住宅の計画として、効率よく水回りを配置し、整形な居室空間を確保するためには、最低間口3.5mは必要です。
②スタッフルーム
練習課題ではそれぞれ別に要求されていた室が1つにまとめられました。
受付を行う事務室、介護・介助を業務とするサービスステーション、更衣室(男女)、スタッフ控室に該当するものです。したがって、100㎡規模の室の計画が必要となります。計画に当たっては、大きな面積になりますので、1階に設けるか又は2階に設けるか計画を迷わせる一因になったと思われます。プランAのように1階に配置した場合には、2階のデイサービスの見通しの良い位置にその他必要と思われる室としてサービスカウンターを計画しておけばよいでしょう。また、2階に全てまとめたものが、プランCです。
③浴室
一般浴室については、男女別の要求です。したがって、機械浴室を含め、計3か所の脱衣室への動線を確保しなければなりませんでした。
6.構造計画について
「目標耐震性能」という言葉で、焦った受験者の方も多いかと思いますが、冷静に考えれば、学科構造で、一度は触れている内容なのです。建築物は、供用期間中に数回遭遇する中地震(震度5)に対しては損傷しないこと、極めて稀な大地震(震度6強)に対して、2倍程度の塑性変形は許容するが、倒壊しないことです。
免震構造の場合は、地震の影響を絶縁することで、許容応力度設計とすることができるので、目標耐震性能は、「極めて稀な大地震に遭遇しても、建築物が損傷しない弾性限度内に留まること」で、言いかえれば、「大地震時の各部の応力が短期許容応力度以下で、かつ層間変形角1/200以下となる構造計画」ということになります。
その他の記述については、「目標耐震性能を達成するために」とありますが、練習課題などで学習してきた内容がきちんと書ければ問題ありません。
7.設備計画について(プランA、C参照)
厨房の排気ファンの設置位置、排気ダクトのルート、について記述が求められました。
排気ファンは、ダクトの外壁側の近くに設けることになります。天井点検口も必要です。排気ルートについては、当然、煙や臭いが出ますので、住戸の開口部側は、避けなければなりません。また、給気は、なるべく排気と離れた位置に設けます(ショートサーキットを避ける)。当然短いルートで、防火区画内でダクトを設けるのが望ましい計画ですし、防火区画を貫通する場合は、ファイアーダンパーが必要になります。
また住宅部門の断面計画については、住戸内部の床上配管について記述できていればよいと思います。プラン例の寸法計画で説明します。住戸は高さ150㎜の床組をすることで床上配管とし、下階への漏水や音の問題を処理しています。また、一部浴室・洗面では、その部分のスラブを100㎜下げ、250㎜の設備スペースを確保し、低床のユニットバスを設置できるように考えています。水廻り、特に便所は、PS近くに計画することが、設備計画上大切です。
以上が、標準的な考え方と思いますが、今年の課題は、自由度が高く、多様な解答が許容されるのではないかと思います。
標準的な答案としてプランA、参考答案としてプランB、Cの計3パターンを用意しました。
【TACオリジナルプランA】
【TACオリジナルプランB】
【TACオリジナルプランC】