TAC建築士講師室ブログ

TAC建築士講座の講師・スタッフのブログです。

地震力

井澤ですいざわ

前回扱った「
風圧力」と「地震力」に対する木造の必要壁量について、もう少し掘り下げて考えていきます。

■問題1
地上2階建ての木造建築物において、風による水平力に対して必要な耐力壁の量を、建築物の階数、床面積及び屋根の重量により算定した。(一級構造:平成24No.10
■問題2
地上2階建ての木造建築物において、風圧力に対して必要な1階の耐力壁の有効長さ(必要壁量)は、2階の床面から上部の見付面積に所定の数値を乗じて得た数値以上となるように計画した。(一級構造:平成25No.
■問題3
地上2階建ての木造建築物において、風圧力に対して必要な耐力壁の有効長さ(必要壁量)を求める場合、同一区域に建つ「平家建ての建築物」と「2階建ての建築物の2階部分」とでは、見付面積に乗ずる数値は異なる。(一級構造:平成22No.10

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■解答
問題1 誤。建築物の階数、床面積、屋根の重量により算定するのは、「風圧力」ではなく「地震力」に対する必要壁量である。
問題2 誤。2階の床面から上部の見付面積」ではなく「1階の床面からの高さが1.35mを超える部分(2階を含む)の見付面積」が正しい。
問題3 誤。「見付面積に乗ずる数値」は、階数にかかわらず一定で、一般区域では50cm/㎡。
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問題1~3からお分かりのとおり、
風圧力」に対する必要壁量と、「地震力」に対する必要壁量の違いをきちんと比較整理しておかなければなりません。


――――――ポイント:必要壁量―――――――
 

風圧力」に対する必要壁量(必要な耐力壁の量)

けた行方向
必要壁量

妻側の見付面積

×

見付面積に乗じる数値

はり間方向
必要壁量

平側の見付面積

×

見付面積に乗じる数値

 

 


「床面からの高さが1.35mを超える部分(上階を含む)の見付面積」
(No.383図参照)

 


・階数にかかわらず一定
・一般区域では50cm/

 

地震力に対する必要壁量(必要な耐力壁の量)

必要壁量

床面積

×

床面積に乗じる数値


はり間方向、けた行方向とも同じ値

 

 

 


階数、屋根の重量によって変わる(次図参照)

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■「地震力について「床面積に乗じる数値(単位cm/)
wall quantity 2
上記の数値を覚える必要はありません。次の傾向を覚えてください。
・瓦など重い屋根のほうが数値が大きい(必要壁量が長い)
・下階のほうが大きい(必要壁量が長い)
・平家建の1階部分と2階建の2階部分の数値は異なる。
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井澤ですいざわ

■問題1
建築物の地下部分の各部分に作用する地震力は、一般に、当該部分の固定荷重と積載荷重との和に水平震度を乗じて計算する。(一級構造:平成25No.8)
■問題2
地下部分の地震層せん断力は、「地下部分の固定荷重と積載荷重との和に、当該部分の地盤面からの深さに応じた水平震度kを乗じて求めた地震力」と「地上部分から伝わる地震層せん断力」との和である。(一級構造:平成27No.7)

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■解答
 問題1、2ともに正。
 問題1の主語は「地震力」、問題2の主語は「地震層せん断力」であることがポイントです。
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ポイント:地下部分の地震力と地震層せん断力
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① 地下部分の地震力
  =(固定荷重+積載荷重)×水平震度
② 地下部分の地震層せん断力
  =(固定荷重+積載荷重)×水平震度
   +「地上部分から伝わる地震層せん断力」
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前回№326で説明したように、
水平震度とは、ある層の地震力が、その層の重量の何倍かを表します。
重量は(固定荷重+積載荷重)です。それが上記の①です。
②は、地震層せん断力です。
せん断力は応力の一つですから、求めようとする点で切断して片側に働く力を求めます。すなわち、「地下部分に直接働く地震力①」と「地上部分から伝わる地震層せん断力」の和になります。それが上記の②です。

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地下部分の水平震度の大きさは、次のとおりです。
・地盤面では0.1(Zは地域地震係数)。
・地盤面からの深さが20までは、深くなるにつれて小さくなる。
地盤面からの深さが20を超えると、0.05で一定となる。
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※前回№
326で説明しました、
・屋上から突出する塔屋の水平震度が1.0Z、
・地表に設置された広告塔などの工作物の水平震度が0.5
と比べると、地下部分の地震力は小さいことがわかります。

井澤ですいざわ

■問題1
単位床面積当たりの積載荷重の大小関係は、実況に応じて計算しない場合、「床の構造計算をする場合」>「大ばり、柱又は基礎の構造計算をする場合」>「地震力を計算する場合」である。(一級構造:平成18No.8)
■問題2
事務室の柱の垂直荷重による圧縮力を計算する場合において、ささえる床の数に応じて、積載荷重を低減することができる。(一級構造:平成19No.8)
■問題3
劇場の柱の垂直荷重による圧縮力を計算する場合において、ささえる床の数に応じて、積載荷重を低減することができる。(一級法規:平成23No.12改)

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■解答
 問題1、2 正。
 問題3 誤。劇場の場合、ささえる床の数による積載荷重の低減はない。
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積載荷重
は、人間、家具など、移動可能なものの重さによる荷重です。
積載荷重の特徴は、分布に偏りが生じることです。
そこで、分布の偏りを考慮して、次の3つの計算において、それぞれ異なる値が定められています。

(1)積載荷重と構造計算の種類

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① 床の構造計算用
床の構造計算をする場合は、積載荷重が最も集中した最大値でも床が抜けないようにするため、積載荷重の値は最大値になります。
② 大ばり・柱・基礎の構造計算用
上図で考えると左手前の柱は、床の左手前1/4の積載荷重を負担します。床の1/4全体が積載荷重の最大値になっていることは考えにくく、床の1/4で積載荷重が平均化されると、積載荷重の値は小さくなります。
③ 地震力の構造計算用
地震力は床全体の重量にかかります。床全体でみると、積載荷重はさらに平均化されるので、積載荷重の値はさらに小さくなります。


(2)柱がささえる床の数による積載荷重の低減

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① 一般の場合(劇場、映画館等以外)
考え方は(1)と同じです。
ささえる床の数が多くなると、その分、積載荷重が平均化され、偏りが小さくなるので、積載荷重を低減することができます。
(注意)
ささえる床の数が多くなると低減率は小さくなりますが、決して積載荷重が小さくなるということではありません。上図下段のとおり、1階柱の積載荷重は、2階柱の積載荷重よりも大きくなります。
② 劇場、映画館等の場合
劇場、映画館等では、「ささえる床の数による積載荷重の低減」はありません。
劇場、映画館等では全階満員で、平均化しても積載荷重の値が小さくならない場合があるからです。

井澤ですいざわ

今日から構造です。
「荷重・外力の組合せ」からです。
結構間違えやすい部分です。
最重要ポイントは「多雪区域で、積雪荷重を長期荷重、風圧力、地震力にどのように組み合わせるか」です。

■問題1
保有水平耐力計算に用いる荷重及び外力の組合せにおいては、地震力と風圧力が同時に作用することは想定していない。(一級構造:平成18No.8)
■問題2
多雪区域ではない地域において、暴風時又は地震時の荷重を、積雪荷重と組み合わせる必要はない。(一級構造:平成21No.7)
■問題3
多雪区域内において、長期積雪荷重は、短期積雪荷重の0.7倍の数値とする。(一級構造:平成21No.7)
■問題4
多雪区域においては、暴風時又は地震時の荷重を、積雪荷重と組み合わせる必要がある。(一級構造:平成26No.8)
■問題5
多雪区域において、暴風時に考慮すべき積雪荷重は、短期の積雪荷重を低減して用いることができる。(一級構造:平成27No.8)
■問題6
多雪区域においては、暴風時においても積雪荷重がある場合と積雪荷重がない場合とを考慮する。(一級構造:平成19No.8)
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■解答
 問題1 正。保有水平耐力計算でも許容応力度計算でも、地震力と風圧力が同時に作用することは想定していない。
 問題2 正。
 問題3 正。長期積雪荷重=0.7S。
 問題4 正。(+0.35S)している。
 問題5 正。短期の積雪荷重Sを0.35倍に低減して用いる。
 問題6 正。
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荷重・外力の組合せ

力の種類

状態

一般区域

多雪区域

長期に
生ずる力

常時

(G+P)

(G+P)

積雪時

 ---

(G+P)0.7

短期に
生ずる力

積雪時

(G+P)+S

(G+P)+S

暴風時

(G+P)+W

(G+P)+W

(G+P)+W0.35

地震時

(G+P)+K

(G+P)+K0.35

G+P:固定荷重+積載荷重
S:積雪荷重
W:風圧力
K:地震力

一見複雑そうですが、
一般区域(=多雪区域ではない区域)は単純ですね。また、多雪区域と一般区域との違いは、赤で示した積雪荷重Sの扱いだけです。

――――ポイント:荷重・外力の組合せ――――
① 一般区域、多雪区域とも、風圧力Wと地震力Kを組み合わせない。(暴風と地震は同時に来ないと想定している)
② 一般区域では、風圧力W、地震力Kだけでなく積雪荷重Sも組み合わせない。
③ 多雪区域では、積雪荷重Sを長期荷重、風圧力W、地震力Kにどのように組み合わせるかがポイント。
 →長期荷重には0.7(短期積雪荷重の0.7倍)を加える。
 →短期の風圧力W、地震力Kには0.35を加える。
④ 多雪区域で風圧力Wを計算する場合、0.35Sを加える場合と加えない場合の両方を検討する。(風により吹上力が生じるときは0.35Sを加えない場合のほうが危険だから。)
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