TAC建築士講師室ブログ

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塑性変形能力

井澤ですいざわ

今回が今年の一級建築士学科本試験前の最後の書込みになります。

■問題1
SN490材において、C種は、B種に比べて板厚方向に作用する引張力に対する性能が高められているので、角形鋼管柱の通しダイアフラム等のような板厚方向に大きな引張力を受ける部位への使用が有効である。(一級構造:平成22No.15
■問題2
建築構造用圧延鋼材(SN材)には、A、B、Cの三つの鋼種があるが、いずれもシャルピー吸収エネルギーの規定値がある。(一級構造:平成25No.29
■問題3
プレス成形角形鋼管(BCP材)は、冷間加工を行う原材の材質がSN材のB種又はC種に準拠している。(一級構造:平成19No.20

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■解答
問題1 正。
問題2 誤。シャルピー衝撃試験は、切欠きの入った試験片にハンマーで衝撃を与え、破断するのに要する吸収エネルギーを求める試験で、吸収エネルギーが大きいと、塑性変形能力が大きいと言えます。塑性変形能力が求められているのは、B種とC種だけで、A種には求められていません。したがって、シャルピー吸収エネルギーの規定値があるのは、B種とC種だけです。
問題3 正。冷間成形角形鋼管(BCP:ボックスコラムプレス/BCR:ボックスコラムロール)は、SN材のB種又はC種の鋼板を成形したものです。
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さっそくSN材(建築構造用圧延鋼材)のポイントを確認しましょう。
 

鋼種

特徴と使用箇所

具体的な
使用箇所

降伏点の規定

SN400

溶接性及び塑性変形能力を期待しない部材に使用する。

小梁や間柱

降伏点の下限値だけが定められている。

SN400

広く一般的に用いられ、溶接性が良く、塑性変形能力を期待される部材に使用する。

梁や柱

降伏点の下限値だけでなく、上限値も定められている。

SN400

B種の性能に加え、板厚方向に大きな引張力を受ける部材に使用する。

ダイアフラム

降伏点の下限値だけでなく、上限値も定められている。


■降伏点の規定について
A種のように、降伏点の下限値だけが定められているのは、ごく普通のことです。普通は強ければ強いほど良いのですから。
B種、C種が、降伏点(降伏強度)の上限値も定められている理由は、降伏比(降伏強度/引張強度)を大きくしないためです。
降伏比が小さいほど、降伏してから最大強度(=引張強度)までの余裕があり、塑性変形能力が大きくなりますからね。前回のNo.352の復習です。

■さて、SN
400A、B、Cの降伏点の下限値(板厚40mm以下)はいくつですか?
→どれも235/㎟です。
No.340(SN400B・SD345の数値の意味)で確認しておきましょう。
http://kentikushi-blog.tac-school.co.jp/archives/47848865.html

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さあ、いよいよ日曜日は一級建築士学科本試験です。

今までの皆さんの努力が報われますよう、
皆さんの合格を心から祈っています。

祈合格!

井澤ですいざわ

■問題1
降伏比の小さい鋼材を用いた鉄骨部材は、一般に、塑性変形能力が小さい。(一級構造:平成26年No.29
■問題2
鉄骨構造のラーメン構造において、靱性を高めるために、塑性化が予想される柱又は梁については、幅厚比の大きい部材を用いる。(一級構造:平成25年No.16
■問題3
有効細長比λが小さい筋かい(λ=20程度)は、有効細長比λが中程度の筋かい(λ=80程度)に比べて変形性能が高い。(一級構造:平成22年No.16

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■解答
 問題1 誤。
 問題2 誤。
 問題3 正。
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さっそくポイントを確認しましょう。

―――――――――ポイント―――――――――
鉄骨構造で出てくる次の3つの「比」は、
すべて小さいほど塑性変形能力が高い。
降伏比
幅厚比
細長比
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3つの「比」を覚える語呂合わせ
「幸   福  は細く長く」
 降伏比 幅厚比 細長比
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それでは、それぞれ少しだけ詳しく説明しましょう。

■降伏比
降伏比(降伏強度/引張強度)が小さいほど、降伏してから最大強度(=引張強度)までの余裕があり、塑性変形能力が大きくなります。
■幅厚比
幅厚比(幅/厚)が小さいほど、薄っぺらくなくなり(ピンと来なかったら絵を描いて!)、局部座屈が生じにくくなり、塑性変形能力が大きくなります。
■細長比
細長比(座屈長さ/断面二次半径)は、文字通り、細長さを表すので、細長比が小さいほど、細長くなくなります。すると、座屈が生じにくくなり、塑性変形能力が大きくなります。(座屈は抵抗力が急激に低減します。
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塑性変形能力についても確認しておきましょう。
―――――――――ポイント―――――――――
「靱性が高い」=「粘り強い」=「塑性変形能力が高い」=「変形能力が高い」
すべて、同じ意味です。
すべて、降伏後に抵抗力が急激に低減することなく、塑性域でも変形し続ける能力が高い、という意味です。
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ついでに次のことも確認しておきましょう。
―――――――――ポイント―――――――――
一般に、AB比と言えば、A/Bです。
・幅厚比は、幅/厚
・径厚比は、径/厚(鋼管の場合)
・水セメント比は、水/セメント(質量比)
・セメント水比は、セメント/水(質量比)
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井澤ですいざわ
今回は皆さんが特に苦手な構造特性係数Dsです。
苦手な人は、分かるまでじっくり3度読んでみてください。

■問題1
構造特性係数Dsは、架構が靱性に富むほど大きくなる。(一級構造:平成24No.26
■問題2
必要保有水平耐力Qunは、各階の変形能力を大きくすると小さくなる。(一級構造:平成26No.24改)

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■解答
■問題1 誤。靱性が高いほど、構造特性係数Dsは小さくなる。
■問題2 正。変形能力が大きい(=靱性が高い)ほど、構造特性係数Dsは小さくなり、必要保有水平耐力は小さくなる。
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まずは、問題1、2の中に出てくる用語「靱性」「変形能力」について確認しておきましょう。これもとっても大事な内容です。

―――――――――ポイント―――――――――
「靱性が高い」=「粘り強い」=「塑性変形能力が高い」=「変形能力が高い」
すべて、同じ意味です。
すべて、降伏後に抵抗力が急激に低減することなく、塑性域でも変形し続ける能力が高い、という意味です。
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さて、本題の必要保有水平耐力
un構造特性係数Dsの話をしましょう。

前回説明したとおり、
「必要保有水平耐力」は、文字通り「保有水平耐力」として最低「必要」な値です。

具体的な算出方法は次のとおりです。
(必要保有水平耐力Qun)=(構造特性係数Ds)×(形状係数Fes)×(C01.0の大地震時の地震層せん断力Qud

では、「必要保有水平耐力」は何を意味しているのか?
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必要保有水平耐力とは、ズバリ、「標準せん断力係数C01.0の大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」です。
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「保有水平耐力」が「必要保有水平耐力」以上であれば、C01.0の大地震のエネルギーを吸収できるので倒壊しないというわけです。

■「C01.0の大地震時の地震層せん断力Qud
との違いは?
必要保有水平耐力Qunは「大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」
udは「大地震時の地震層せん断力」
これは違うのか? 違うのです!

horizontal load-carrying capacity_2

まず初めに、「保有水平耐力」が「
② 大地震時の地震層せん断力Qud」以上であれば、大地震でも倒壊しません。
これが前回説明したとおり、必要保有水平耐力のベースが「② 大地震時の地震層せん断力Qud」である理由です。これは「力」だけで耐えている状態です。

一方、ほどの「力」は無くても、
「靱性=変形能力」が高ければ、大地震のエネルギーを吸収でき、倒壊を防ぐことができます
つまり、大地震のエネルギーを吸収するには、「力」で耐えるだけでなく「靱性=変形能力」で吸収することもできるのです。
なぜなら、「力」×「変形」=仕事=エネルギーだからです。

したがって、
「靱性=変形能力」が高ければ、② 大地震時の地震層せん断力Qud」より小さな力でも、大地震のエネルギーを吸収できるのです。
その力が「① 大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」すなわち「必要保有水平耐力Qunです。
そして、ベースである「② 大地震時の地震層せん断力Qud」からどれだけ小さくできるかを表すのが「構造特性係数Dsです。

―――――――――ポイント―――――――――
靱性が高いと、
構造特性係数Dsは小さくなる。
必要保有水平耐力も小さくなる。
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