井澤ですいざわ
No.330からずっと保有水平耐力計算をテーマとしてきましたが、今回で一区切りです。
最後には、今すぐ使える受験テクニックも紹介します。

■問題
鉄筋コンクリート造の建築物において、保有水平耐力を大きくするために耐力壁を多く配置すると、必要保有水平耐力も大きくなる場合がある。(一級構造:平成25No.30


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■解答 正
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No.330
では、最初に次のように説明しました。

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保有水平耐力計算(耐震計算ルート3)では、各階について次のことを確認します。
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保有水平耐力≧必要保有水平耐力
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設問を考える際、聞かれているのは左辺のことか、右辺のことか、見極めることが大事です。
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今回の設問は、この左辺を大きくすると、右辺も大きくなる場合がある、と言っているのです。
以下のポイントは、すべて既に説明した内容の復習になります。

―――――――――ポイント―――――――――

■① 左辺の「保有水平耐力」とは、「崩壊機構を形成する場合の各階の柱、耐力壁及び筋かいが負担する水平せん断力の和」です。
これは構造力学の計算問題で皆さんが解いている「崩壊荷重」のことです。仮想仕事の原理を用いて解く、アレです。
設問のように、耐力壁を多く配置すると、左辺の「保有水平耐力」は大きくなります。

■② 右辺の
「必要保有水平耐力」とは、「大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」です。
「靱性=変形能力」が高ければ、「力」で耐えるだけでなく、大地震のエネルギーを「靱性=変形能力」で吸収することもできるので、「必要保有水平耐力」を小さくすることができます。
逆に、設問のように、耐力壁を多く配置すると、強度は大きくなりますが、「靱性=変形能力」は低くなります。
靱性が低いと、力で耐えなければならないので、構造特性係数Dsが大きくなり、必要保有水平耐力も大きくなります。

③ したがって、設問のとおり、左辺の「保有水平耐力」を大きくするために耐力壁を多く配置すると、靱性が低くなるために、右辺の「必要保有水平耐力」も大きくなってしまう場合があり、必ずしも有利であるとは限らないのです。
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最後に、今すぐ使える受験テクニックの紹介です。

――――今すぐ使える受験テクニック―――――
この設問のように「・・・な場合がある。」「・・・なことがある。」という記述は、必ず正しい記述です。
なぜなら、例えば「大きくなる場合がある。」とは「小さくなる場合もある。」と言っているのですから、「大きくなる場合もあれば、小さくなる場合もある。」という内容であり、誤った記述にはなり得ませんから。
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