TAC建築士講師室ブログ

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構造特性係数

井澤ですいざわ

■問題1
鉄筋コンクリート構造において、必要保有水平耐力の計算に当たり、付着割裂破壊する柱の部材種別をFB材として構造特性係数Dsを算定した。(一級構造:平成20No.14
■問題2
鉄筋コンクリート造の建築物の保有水平耐力計算において、構造特性係数Dsを算定する際に必要となる部材種別の判定に当たり、メカニズム時において耐力壁部材がせん断破壊したので、部材種別はWDとした。(一級構造:平成22No.14
■問題3
ブレース構造とした鉄骨造の梁において、崩壊メカニズム時に弾性状態に留まることを確かめたので部材種別FBの梁を採用した。(一級構造:平成24No.18
■問題4
鉄骨鉄筋コンクリート構造において、構造特性係数Dsの算定に当たって、耐力壁の想定される破壊モードがせん断破壊以外であったので、その耐力壁の種別をWAとした。(一級構造:平成24No.19

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■解答
■問題1 誤。付着割裂破壊(RC造において、異形鉄筋の節(ふし)が周囲のかぶりコンクリートを押し広げ、はく離させる破壊)は脆性破壊であり、脆性破壊する部材の種別はD。したがって、柱の部材種別はFDとする。
■問題2 正。せん断破壊は脆性破壊であり、脆性破壊する部材の種別はD。したがって、耐力壁の部材種別はWDとする。
■問題3 正。本来、梁の部材種別はFAが望ましいが、崩壊メカニズム時(崩壊機構を形成した時)に弾性状態に留まるならば、「塑性状態における変形性能を表す靱性」は関係ないので、FBでも良い。
■問題4 正。SRC造の耐力壁の種別は、WAとWCしかなく、せん断破壊「以外」ならばWA、せん断破壊ならばWCとする。
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この設問を理解する上で、はじめに「構造特性係数」と「
部材種別」の関係を確認しておきましょう。
――――――――――――――――――――――
構造特性係数Dsの値を決める要素に、「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」や「柱・梁の種別(FA~FD)」、「耐力壁の種別(WA~WD)」などがある。
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「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」については前回扱いました。
部材種別のFはフレーム(=柱・梁)のFWはウォールのWです。

前回、次のポイントを説明しました。

部材

靱性部材or脆性部材

柱・梁

変形能力に優れた靱性部材

耐力壁・筋かい

強度は大きいが、変形能力に乏しい脆性部材

これはあくまで一般的傾向としての分類であり、一般に「靱性部材」とされる「柱・梁」の中にも、靱性の高い部材もあれば低い部材もあり、また、一般に「脆性部材」とされる「耐力壁・筋かい」の中にも、靱性の高い部材もあれば低い部材もあります。それをAからDまででランク付けするのです。

―――ポイント
構造特性係数Dsの算定における部材種別―――

柱・梁の種別にはFA~FD、耐力壁の種別にはWA~WDがあり、
・靱性が高ければAランク(FAやWA)。
・靱性が低く、脆性破壊のおそれが高ければCランクやDランク。
(構造種別、部位によっては、Cまでしかない、又はAとCしかないという場合もあります。)
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あとは、何が脆性破壊かが分かれば解けます。

――――――ポイント:脆性破壊―――――――
主な脆性破壊
・せん断破壊
・付着割裂破壊(RC造)
・局部座屈(S造)
――――――――――――――――――――――
以上を踏まえて、いま一度、設問と解答を確認してみてください。

井澤ですいざわ
今回も構造特性係数を扱います。
苦手な方が多いと思いますが、踏ん張りどころです

■問題1
剛節架構と耐力壁を併用した鉄筋コンクリート造の場合、柱及び梁並びに耐力壁の部材群としての種別が同じであれば、耐力壁の水平耐力の和の保有水平耐力に対する比βuについては、0.2である場合より0.7である場合のほうが、構造特性係数Ds を小さくすることができる。(一級構造:平成20年No.21
■問題2
鉄骨造の建築物の必要保有水平耐力の検討に当たって、ある階の保有水平耐力に占める筋かい部分の水平耐力の割合が50%となる場合は、筋かいのない純ラーメンの場合に比べて、構造特性係数Dsを小さくすることができる。(一級構造:平成25年No.25

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■解答
■問題1、2ともに誤。
RC造でもS造でも「耐力壁・筋かい(脆性部材)の水平力分担率βu」が大きくなると、靱性が低くなり、構造特性係数Dsは大きくなります。いわば「力」だけで耐えなければなりません。
なお、問題1の「剛節架構」とはラーメン架構のことです。
問題2の「ある階の保有水平耐力に占める筋かい部分の水平耐力の割合」とは「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」です。「筋かいのない純ラーメン」ではβuは0です。
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この設問を理解する上で、はじめに次の関係を確認しておきましょう。
――――――――――――――――――――――
・必要保有水平耐力を決める要素の一つに、構造特性係数Dsがある。
・構造特性係数Dsを決める要素に、「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」や「柱・梁の種別(FA~FD)」「耐力壁の種別(WA~WD)」などがある。
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設問は「構造特性係数Ds」と「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」の関係についての問題です。
柱・梁の種別(FA~FD)」「耐力壁の種別(WA~WD)」については次回扱いましょう。

前回のポイントを思い出してください。
―――――――前回のポイント――――――――
靱性が高いと、
構造特性係数Dsは小さくなる。
必要保有水平耐力も小さくなる。
――――――――――――――――――――――

これに次のポイントが加われば、今回の問題が解けます。
―――――――今回のポイント――――――――
RC造であれば耐力壁、S造であれば筋かいが多くなると
(=耐力壁・筋かいの水平力分担率βuが大きくなると)
強度は大きくなるが、靱性が低くなる。
――――――――――――――――――――――

今回のポイントを理解するために、まずは次の内容を理解しましょう。
 

部材

靱性部材or脆性部材

柱・梁

変形能力に優れた靱性部材

耐力壁・筋かい

強度は大きいが、変形能力に乏しい脆性部材


horizontal load-carrying capacity_3


保有水平耐力のうち、「靱性部材である柱・梁」と「脆性部材である耐力壁・筋かい」が何%ずつ負担するのか、を表すのが「耐力壁・筋かいの水平力分担率β
u」です。

図中、「β
u=0.3」の意味は、「脆性部材である耐力壁・筋かい」が保有水平耐力の3割を負担しているということです。逆に、残り7割は、「靱性部材である柱」が負担していることになります。したがって、「βu=0.3」は「βu=0.7」よりも靱性が高いのです。


ポイント:「耐力壁・筋かいの水平力分担率β
u」と靱性・構造特性係数のポイント
 

βu

耐力壁・筋かいの水平力分担率βuが小さい

耐力壁・筋かいの水平力分担率βu が大きい

 

脆性部材

耐力壁・筋かい(脆性部材)が少ない

耐力壁・筋かい(脆性部材)が多い

靱性部材

柱・梁(靱性部材)が多い

柱・梁(靱性部材)が少ない

RC造の例

ラーメン構造

壁式構造

S造の例

筋かい少ない

筋かい多い

 

靱性

靱性が高い

靱性が低い

 

構造特性係数

構造特性係数を小さくできる

構造特性係数が大きくなる

 

井澤ですいざわ
今回は皆さんが特に苦手な構造特性係数Dsです。
苦手な人は、分かるまでじっくり3度読んでみてください。

■問題1
構造特性係数Dsは、架構が靱性に富むほど大きくなる。(一級構造:平成24No.26
■問題2
必要保有水平耐力Qunは、各階の変形能力を大きくすると小さくなる。(一級構造:平成26No.24改)

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■解答
■問題1 誤。靱性が高いほど、構造特性係数Dsは小さくなる。
■問題2 正。変形能力が大きい(=靱性が高い)ほど、構造特性係数Dsは小さくなり、必要保有水平耐力は小さくなる。
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まずは、問題1、2の中に出てくる用語「靱性」「変形能力」について確認しておきましょう。これもとっても大事な内容です。

―――――――――ポイント―――――――――
「靱性が高い」=「粘り強い」=「塑性変形能力が高い」=「変形能力が高い」
すべて、同じ意味です。
すべて、降伏後に抵抗力が急激に低減することなく、塑性域でも変形し続ける能力が高い、という意味です。
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さて、本題の必要保有水平耐力
un構造特性係数Dsの話をしましょう。

前回説明したとおり、
「必要保有水平耐力」は、文字通り「保有水平耐力」として最低「必要」な値です。

具体的な算出方法は次のとおりです。
(必要保有水平耐力Qun)=(構造特性係数Ds)×(形状係数Fes)×(C01.0の大地震時の地震層せん断力Qud

では、「必要保有水平耐力」は何を意味しているのか?
――――――――――――――――――――――
必要保有水平耐力とは、ズバリ、「標準せん断力係数C01.0の大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」です。
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「保有水平耐力」が「必要保有水平耐力」以上であれば、C01.0の大地震のエネルギーを吸収できるので倒壊しないというわけです。

■「C01.0の大地震時の地震層せん断力Qud
との違いは?
必要保有水平耐力Qunは「大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」
udは「大地震時の地震層せん断力」
これは違うのか? 違うのです!

horizontal load-carrying capacity_2

まず初めに、「保有水平耐力」が「
② 大地震時の地震層せん断力Qud」以上であれば、大地震でも倒壊しません。
これが前回説明したとおり、必要保有水平耐力のベースが「② 大地震時の地震層せん断力Qud」である理由です。これは「力」だけで耐えている状態です。

一方、ほどの「力」は無くても、
「靱性=変形能力」が高ければ、大地震のエネルギーを吸収でき、倒壊を防ぐことができます
つまり、大地震のエネルギーを吸収するには、「力」で耐えるだけでなく「靱性=変形能力」で吸収することもできるのです。
なぜなら、「力」×「変形」=仕事=エネルギーだからです。

したがって、
「靱性=変形能力」が高ければ、② 大地震時の地震層せん断力Qud」より小さな力でも、大地震のエネルギーを吸収できるのです。
その力が「① 大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」すなわち「必要保有水平耐力Qunです。
そして、ベースである「② 大地震時の地震層せん断力Qud」からどれだけ小さくできるかを表すのが「構造特性係数Dsです。

―――――――――ポイント―――――――――
靱性が高いと、
構造特性係数Dsは小さくなる。
必要保有水平耐力も小さくなる。
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