井澤です
今回の内容は難しいところですから、しっかり理解してくださいね。
■問題1
鉄筋コンクリート構造において、一般に、柱部材の引張鉄筋が多いほど、曲げ耐力は大きくなり、靭性能は向上する。(一級構造:平成22年No.11)
■問題2
鉄筋コンクリート造の柱は、せん断補強筋量が規定値を満足する場合、主筋が多く入っているほど変形能力が大きい。(一級構造:平成23年No.26)
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■解答
問題1、2ともに誤。どちらも同じ内容です。主筋(引張鉄筋)が多いほど、曲げ耐力が大きくなります。それにより曲げ降伏よりもせん断破壊が先行するため、靱性は低下します(=変形能力は低下します)。
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前回№359で説明したとおり、RC造において、
・曲げモーメントは、主筋が負担します。
・せん断力は、柱では帯筋(せん断補強筋)が負担します。
これは次のように言い換えることもできます。
・主筋を多くすると、曲げ強度(耐力)が大きくなる。
・帯筋を多くすると、せん断強度(耐力)が大きくなる。
次図の左側の図のような柱の柱頭部に水平力が作用した場合、柱脚部分には曲げ応力度とせん断応力度が同時に生じます。図中の青い応力度分布です。
水平力が大きくなるにつれて、曲げ応力度とせん断応力度は、ともに大きくなっていきます。
ポイント
図中の赤い点線が「主筋量で決まる曲げ強度」であり、「帯筋量で決まるせん断強度」だと思ってください。
■先に曲げ強度に達したときは、縁から曲げ降伏が始まります。すぐ曲げ破壊には至らないので「曲げ降伏」と言います。これは靱性の高い破壊形式です。
なぜなら、縁が曲げ降伏した後も、降伏が断面の中心部まで進行し、全断面が降伏して全塑性状態になるまで粘り強く耐えられるからです。それを「靱性が高い」「変形能力が高い」と言います。
■先にせん断強度に達したときはせん断破壊します。これは脆性破壊です。急激に耐力が低下します。降伏とほぼ同時に破壊しますので、「せん断破壊」と言います。
―――――――――まとめ――――――――――
■主筋を増やすと
曲げ強度が大きくなり、曲げ降伏よりも先にせん断破壊してしまいます。脆性破壊です。
■帯筋(せん断補強筋)を増やすと
図のようにせん断強度が大きくなり、せん断破壊よりも曲げ降伏が先行し、全断面が降伏して全塑性状態になるまで粘り強く耐え、靱性が確保されます。
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靱性
井澤式 建築士試験 比較暗記法 No.339(筋かい軸部と接合部の強度)
井澤です
■問題1
鉄骨構造の引張力を負担する筋かいの設計において、筋かいが塑性変形することにより地震のエネルギーを吸収できるように、接合部の破断強度は、軸部の降伏強度に比べて十分に大きくする。(一級構造:平成22年No.16)
■問題2
木製の筋かいを有する木質構造の靭性を確保するため、筋かいに座屈や引張破断が生じる前に、筋かい端部の接合部が破壊しないように設計した。(一級構造:平成14年No.22)
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■解答
問題1 正。
問題2 誤。木造と鉄骨造は逆になります。
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問題1は基本です。問題2はひっかけ問題です。平成14年当時はほとんどの人が間違えました。
これは鉄骨と木材の破壊特性の違いによります。
鉄骨造の筋かい軸部は粘り強く伸びます。その塑性変形能力に期待します。
鉄骨造の接合部の破壊は、脆性破壊になります。
したがって、鉄骨造では筋かい軸部の降伏を先行させたほうが靱性を確保できます。
一方、木造の筋かい軸部は伸びないので、塑性変形能力が期待できません。
逆に、木造の接合部の破壊は、圧縮では木材のめり込み、引張ではボルトのめり込みにより、急激に耐力が低下せず、靱性破壊になります。
したがって、木造では接合部の破壊を先行させたほうが靱性を確保できます。
――ポイント:筋かい軸部と接合部の強度――
■鉄骨造の筋かい
筋かい軸部の降伏強度
≦ 接合部の破断強度
(筋かい軸部は靱性破壊)(接合部は脆性破壊)
(伸びる) (ぶちぎれる)
■木造の筋かい
筋かい軸部の破断強度
≧ 接合部の降伏強度
(筋かい軸部は脆性破壊)(接合部は靱性破壊)
(伸びない) (めり込み)
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井澤式 建築士試験 比較暗記法 No.333(耐力壁・筋かいの水平力分担率βu)
井澤です
今回も構造特性係数を扱います。
苦手な方が多いと思いますが、踏ん張りどころです
■問題1
剛節架構と耐力壁を併用した鉄筋コンクリート造の場合、柱及び梁並びに耐力壁の部材群としての種別が同じであれば、耐力壁の水平耐力の和の保有水平耐力に対する比βuについては、0.2である場合より0.7である場合のほうが、構造特性係数Ds を小さくすることができる。(一級構造:平成20年No.21)
■問題2
鉄骨造の建築物の必要保有水平耐力の検討に当たって、ある階の保有水平耐力に占める筋かい部分の水平耐力の割合が50%となる場合は、筋かいのない純ラーメンの場合に比べて、構造特性係数Dsを小さくすることができる。(一級構造:平成25年No.25)
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■解答
■問題1、2ともに誤。
RC造でもS造でも「耐力壁・筋かい(脆性部材)の水平力分担率βu」が大きくなると、靱性が低くなり、構造特性係数Dsは大きくなります。いわば「力」だけで耐えなければなりません。
なお、問題1の「剛節架構」とはラーメン架構のことです。
問題2の「ある階の保有水平耐力に占める筋かい部分の水平耐力の割合」とは「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」です。「筋かいのない純ラーメン」ではβuは0です。
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この設問を理解する上で、はじめに次の関係を確認しておきましょう。
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・必要保有水平耐力を決める要素の一つに、構造特性係数Dsがある。
・構造特性係数Dsを決める要素に、「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」や「柱・梁の種別(FA~FD)」「耐力壁の種別(WA~WD)」などがある。
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設問は「構造特性係数Ds」と「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」の関係についての問題です。
柱・梁の種別(FA~FD)」「耐力壁の種別(WA~WD)」については次回扱いましょう。
前回のポイントを思い出してください。
―――――――前回のポイント――――――――
靱性が高いと、
構造特性係数Dsは小さくなる。
必要保有水平耐力も小さくなる。
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これに次のポイントが加われば、今回の問題が解けます。
―――――――今回のポイント――――――――
RC造であれば耐力壁、S造であれば筋かいが多くなると
(=耐力壁・筋かいの水平力分担率βuが大きくなると)
強度は大きくなるが、靱性が低くなる。
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今回のポイントを理解するために、まずは次の内容を理解しましょう。
部材 |
靱性部材or脆性部材 |
柱・梁 |
変形能力に優れた靱性部材 |
耐力壁・筋かい |
強度は大きいが、変形能力に乏しい脆性部材 |
保有水平耐力のうち、「靱性部材である柱・梁」と「脆性部材である耐力壁・筋かい」が何%ずつ負担するのか、を表すのが「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」です。
図中、「βu=0.3」の意味は、「脆性部材である耐力壁・筋かい」が保有水平耐力の3割を負担しているということです。逆に、残り7割は、「靱性部材である柱」が負担していることになります。したがって、「βu=0.3」は「βu=0.7」よりも靱性が高いのです。
ポイント:「耐力壁・筋かいの水平力分担率βu」と靱性・構造特性係数のポイント
βu |
耐力壁・筋かいの水平力分担率βuが小さい |
耐力壁・筋かいの水平力分担率βu が大きい |
|
↓ |
↓ |
脆性部材 |
耐力壁・筋かい(脆性部材)が少ない |
耐力壁・筋かい(脆性部材)が多い |
靱性部材 |
柱・梁(靱性部材)が多い |
柱・梁(靱性部材)が少ない |
RC造の例 |
ラーメン構造 |
壁式構造 |
S造の例 |
筋かい少ない |
筋かい多い |
|
↓ |
↓ |
靱性 |
靱性が高い |
靱性が低い |
|
↓ |
↓ |
構造特性係数 |
構造特性係数を小さくできる |
構造特性係数が大きくなる |
井澤式 建築士試験 比較暗記法 No.332(構造特性係数Ds)
井澤です
今回は皆さんが特に苦手な構造特性係数Dsです。
苦手な人は、分かるまでじっくり3度読んでみてください。
■問題1
構造特性係数Dsは、架構が靱性に富むほど大きくなる。(一級構造:平成24年No.26)
■問題2
必要保有水平耐力Qunは、各階の変形能力を大きくすると小さくなる。(一級構造:平成26年No.24改)
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■解答
■問題1 誤。靱性が高いほど、構造特性係数Dsは小さくなる。
■問題2 正。変形能力が大きい(=靱性が高い)ほど、構造特性係数Dsは小さくなり、必要保有水平耐力は小さくなる。
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まずは、問題1、2の中に出てくる用語「靱性」「変形能力」について確認しておきましょう。これもとっても大事な内容です。
―――――――――ポイント―――――――――
「靱性が高い」=「粘り強い」=「塑性変形能力が高い」=「変形能力が高い」
すべて、同じ意味です。
すべて、降伏後に抵抗力が急激に低減することなく、塑性域でも変形し続ける能力が高い、という意味です。
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さて、本題の必要保有水平耐力Qunと構造特性係数Dsの話をしましょう。
前回説明したとおり、
「必要保有水平耐力」は、文字通り「保有水平耐力」として最低「必要」な値です。
具体的な算出方法は次のとおりです。
(必要保有水平耐力Qun)=(構造特性係数Ds)×(形状係数Fes)×(C0=1.0の大地震時の地震層せん断力Qud)
では、「必要保有水平耐力」は何を意味しているのか?
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必要保有水平耐力とは、ズバリ、「標準せん断力係数C0=1.0の大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」です。
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「保有水平耐力」が「必要保有水平耐力」以上であれば、C0=1.0の大地震のエネルギーを吸収できるので倒壊しないというわけです。
■「C0=1.0の大地震時の地震層せん断力Qud」との違いは?
① 必要保有水平耐力Qunは「大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」
② Qudは「大地震時の地震層せん断力」
これは違うのか? 違うのです!
まず初めに、「保有水平耐力」が「② 大地震時の地震層せん断力Qud」以上であれば、大地震でも倒壊しません。
これが前回説明したとおり、必要保有水平耐力のベースが「② 大地震時の地震層せん断力Qud」である理由です。これは「力」だけで耐えている状態です。
一方、②ほどの「力」は無くても、「靱性=変形能力」が高ければ、大地震のエネルギーを吸収でき、倒壊を防ぐことができます。
つまり、大地震のエネルギーを吸収するには、「力」で耐えるだけでなく「靱性=変形能力」で吸収することもできるのです。
なぜなら、「力」×「変形」=仕事=エネルギーだからです。
したがって、
「靱性=変形能力」が高ければ、「② 大地震時の地震層せん断力Qud」より小さな力でも、大地震のエネルギーを吸収できるのです。
その力が「① 大地震のエネルギーを吸収するのに必要な力」すなわち「必要保有水平耐力Qun」です。
そして、ベースである「② 大地震時の地震層せん断力Qud」からどれだけ小さくできるかを表すのが「構造特性係数Ds」です。
―――――――――ポイント―――――――――
靱性が高いと、
構造特性係数Dsは小さくなる。
必要保有水平耐力も小さくなる。
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