井澤です
今回は長いですよ。やや難しいですよ。覚悟して読んでください
■問題1
各階の保有水平耐力Quは、建築物の一部又は全体が地震力の作用によって崩壊機構を形成する場合の各階の柱、耐力壁及び筋かいが負担する水平せん断力の和である。(一級構造:平成26年No.24)
■問題2
「曲げ降伏型の柱・梁部材」と「せん断破壊型の耐力壁」により構成される鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力は、一般に、それぞれの終局強度から求められる水平せん断力の和とすることができる。(一級構造:平成27年No.24)
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■解答
■問題1 正。
■問題2 誤。
問題1も2も「水平せん断力の和」なのに、問題1は正で、問題2は誤とは、これいかに? ということで、この後、詳しく説明しましょう。
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まずは次の関係をしっかり理解しましょう。
保有水平耐力計算(耐震計算ルート3)では、各階について次のことを確認します。
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保有水平耐力≧必要保有水平耐力
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設問を考える際、聞かれているのは左辺のことか、右辺のことか、見極めることが大事です。
問題1、2ともに、左辺の「保有水平耐力」についての設問です。
なお、右辺は、皆さん苦手な、
必要保有水平耐力Qun=Ds×Fes×Qud
です。これについては次回扱います。
左辺の「保有水平耐力」とは、問題1のとおり、「崩壊機構を形成する場合の各階の柱、耐力壁及び筋かいが負担する水平せん断力の和」です。
これは構造力学の計算問題で皆さんが解いている「崩壊荷重」のことです。仮想仕事の原理を用いて解く、アレです。
例として平成27年No.4の設問の図を見てください。
図中Puが崩壊荷重です。その値は、「左右の柱が負担する水平せん断力の和」と等しくなります。すなわち「保有水平耐力」です。(この設問では耐力壁及び筋かいはありません。)
「保有水平耐力」は、文字通り、「保有している水平方向の耐力」です。
それでは次に問題2です。もう一度設問を確認しましょう。
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■問題2
「曲げ降伏型の柱・梁部材」と「せん断破壊型の耐力壁」により構成される鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力は、一般に、それぞれの終局強度から求められる水平せん断力の和とすることができる。(誤)
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設問の「それぞれの終局強度から求められる水平せん断力の和(次図のQ1+Q3)」という部分が誤りです。
正しくは、「次図のQ1とQ2の和」です。
次図を良く見てください。
靭性部材(曲げ降伏型の柱・梁部材)については、まだ図中Q3の終局強度に達する前に、Q2の時点で脆性部材が破壊しているので、その時点のQ2とQ1の和が保有水平耐力になります。
「Q1とQ2の和」を正しい記述として文章で表現すると非常に複雑になってしまいますが、次のようになります。
『「せん断破壊型の耐力壁の終局強度から求められる水平せん断力(Q1)」と「せん断破壊型の耐力壁が破壊した時点における、曲げ降伏型の柱・梁部材の強度から求められる水平せん断力(Q2)」の和』
全文を掲載すると次のようになります。
「曲げ降伏型の柱・梁部材」と「せん断破壊型の耐力壁」により構成される鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力は、一般に、「せん断破壊型の耐力壁の終局強度から求められる水平せん断力(Q1)」と「せん断破壊型の耐力壁が破壊した時点における、曲げ降伏型の柱・梁部材の強度から求められる水平せん断力(Q2)」の和とすることができる。(正)